これまでのシリーズでは、

第1回で「なぜ技能実習制度から育成就労制度へ変わるのか」

第2回で「育成就労ではどのような仕事をするのか」

第3回で「育成就労の期間はどうなるのか」

第4回で「技能や日本語能力をどのように評価するのか」

第5回育成就労計画とは?―何を記載し、変更するときはどうする?

第6回育成就労制度の監理支援機関とは?―監理団体との違いと許可要件の厳格化を解説

第7回育成就労制度の転籍とは?本人意向による転籍の要件・費用補填・手続を徹底解説

について解説しました。

育成就労制度では、外国人を受け入れる企業(育成就労実施者)が、育成就労計画を認定されていれば、それだけで制度上の義務を果たしたことになるわけではありません。

実際の雇用管理においても、適正な報酬の支払い、労働関係法令の遵守、費用負担の適正化、雇用契約締結時の説明など、さまざまな事項への対応が求められます。

特に重要なのは、契約書に条件を記載するだけでなく、育成就労外国人本人が自分の待遇を理解できるように説明することです。

今回は、育成就労実施者が押さえておきたい賃金・費用負担・労働条件・待遇の説明義務について、実務上の注意点とともに解説します。

1.報酬は日本人と同等以上でなければならない

育成就労外国人の報酬については、最低賃金を上回っていれば、それだけで問題がないというわけではありません。

育成就労制度では、日本人が従事する場合と同等以上の報酬を確保することが求められます。

最低賃金を下回っていないか

まず確認すべきなのは、適用される最低賃金です。

地域別最低賃金に加え、該当する場合には特定最低賃金も確認しなければなりません。また、最低賃金との比較では、すべての手当を無条件に賃金へ算入できるわけではないため、最低賃金法上の算入対象も確認する必要があります。

日本人と同等以上の報酬か

育成就労外国人の報酬は、同じ事業所で同種の業務に従事する日本人労働者の報酬と比較し、同等以上であることを確認します。

比較する際は、単に職種名や基本給だけを見るのではなく、次のような事情を考慮する必要があります。

  • 従事する業務の内容
  • 責任の程度
  • 技能・経験
  • 勤務時間や勤務形態
  • 手当や賞与などを含む報酬の仕組み

同等の業務に従事する日本人労働者がいない場合には、職務内容が最も近い日本人労働者などを参考にし、就業規則・賃金規程等に基づいて報酬の合理性を説明できるようにしておくことが重要です。

報酬の同等性については、金額だけでなく、その金額を設定した根拠も確認できるようにしておきましょう。賃金規程、比較対象者の職務内容、賃金決定の考え方などを整理しておくと、説明や確認への対応がしやすくなります。

2.食費・居住費などの費用負担は適正か

育成就労外国人から、食費、居住費、水道光熱費などを徴収する場合には、その金額や徴収方法が適正であることが重要です。

本人が同意しているという理由だけで、どのような金額でも徴収できるわけではありません。

費用は実費相当額などの適正な金額にする

育成就労外国人に負担させる費用は、実費に相当する額など、適正なものでなければなりません。

例えば、居住費を徴収する場合には、住居の実際の費用や居住人数などを踏まえて金額の合理性を確認します。

賃貸物件であれば、家賃や管理費等の実際の負担を基礎として検討し、会社所有の物件であれば、建設費、耐用年数、周辺の家賃相場などを参考に、合理的な金額となっているかを確認することが考えられます。

ただし、具体的な算定方法は物件の状況や費用の性質によって異なります。個別のケースでは、最新の運用要領や所定様式の記載に照らして判断する必要があります。

また、食費についても、実際の食材費や提供内容などを踏まえ、徴収額が適正かを確認することが大切です。

本人が理解したうえで合意しているか

費用負担については、金額だけでなく、何のための費用なのか、どのようなサービスや利益を受けるのかについても、本人が理解できるように説明する必要があります。

例えば、住居費を徴収する場合には、住居の写真や設備、居住人数、費用の内訳などを示すと、本人が実際の生活をイメージしやすくなります。

給与から控除する場合の注意点

費用を給与から控除する場合には、労働基準法第24条の賃金全額払いの原則にも注意が必要です。

法令上認められる場合を除き、賃金から一方的に費用を差し引くことはできません。食費や居住費などを給与から控除する場合には、労使協定の要否を確認し、必要な手続を適切に行う必要があります。

本人の同意を得るだけで、賃金全額払いの原則に関する問題がすべて解消するわけではありません。

徴収費用については、次の資料を整理しておくとよいでしょう。

  • 費用の内訳と算定根拠
  • 本人に説明した内容
  • 本人の理解・合意を確認できる資料
  • 給与控除を行う場合の根拠資料や必要な労使協定

育成就労外国人の報酬、宿泊施設、徴収費用については、所定の説明書も活用し、実際の契約内容と説明内容が一致しているかを確認しましょう。

3.労働時間・休日・休暇は労働関係法令に従う

育成就労外国人にも、原則として日本人労働者と同様に労働関係法令が適用されます。

外国人であることや、育成就労制度を利用していることを理由に、労働基準法などの適用がなくなるわけではありません。

労働時間と時間外労働

労働時間、休憩、休日などについて、労働基準法等に従って適切に管理する必要があります。

時間外労働や法定休日労働を行わせる場合には、法令上必要となる36協定の締結・届出や、時間外労働の上限規制などを確認しなければなりません。

また、雇用契約書に記載した労働条件と実際の勤務状況が異なっていないか、勤怠記録や賃金台帳などを通じて確認することも重要です。

年次有給休暇

年次有給休暇についても、労働基準法の要件に従って付与し、適切に取得させる必要があります。

外国人であることや、仕事が忙しいことだけを理由に、年次有給休暇の取得を妨げることはできません。

一時帰国のための休暇

育成就労外国人が一時帰国を希望する場合には、制度上の取扱いにも注意が必要です。

運用要領では、一時帰国のために必要な有給休暇を取得できるようにすることが求められています。法定の年次有給休暇を使い切っている場合には、追加的な有給休暇を付与することを検討し、雇用契約上も、本人から一時帰国の申出があった場合に必要な有給休暇または無給休暇を取得できるようにしておくことが求められます。

また、一時帰国のための休暇を取得したことを理由に、不利益な取扱いをすることは適切ではありません。

育成就労外国人の家族が短期滞在の在留資格で日本を訪れる場合にも、その滞在中に休暇を取得できるよう配慮することが望ましいとされています。

一時帰国の申出があった場合に備えて、申出の受付方法、休暇の取扱い、年次有給休暇を使い切っている場合の対応などを整理しておくと、個別の申出にも適切に対応しやすくなります。

4.雇用契約を締結する際の待遇等の説明義務

育成就労制度では、雇用契約を締結する際に、育成就労外国人が待遇等を理解できるよう説明することが求められます。

これは、雇用契約書や雇用条件書を渡せば、それだけで完了するというものではありません。

誰が、どのような方法で説明するのか

説明は、育成就労実施者または監理支援機関が行う必要があります。送出機関に説明を任せるだけで、必要な説明を行ったことにはなりません。

説明方法については、本人が内容を理解できるよう、対面またはテレビ電話等による方法で行います。録画動画を一方的に視聴させる方法や、電話の音声だけで説明する方法では、必要な説明を満たさないことに注意が必要です。

また、本人が理解できる言語、原則として本人の母国語等を用いて説明することが重要です。

何を説明するのか

説明に当たっては、所定様式や雇用契約書・雇用条件書などを活用し、少なくとも制度上求められる待遇等について、本人が理解できるよう具体的に説明します。

特に、次の事項は丁寧に確認しましょう。

  • 従事する業務の内容
  • 雇用契約上の労働条件
  • 報酬の総支給額と控除項目・控除額
  • 税金、社会保険料、食費、居住費などの控除後に受け取る手取り額
  • 宿泊施設の内容や費用負担
  • 入国後講習期間中の待遇
  • 本人の意向による転籍が制限される期間
  • その他、本人の待遇に関する重要事項

説明内容は、実際の雇用契約や育成就労計画などと整合していなければなりません。

例えば、給与については総支給額だけを説明するのではなく、控除される項目と金額、その結果として本人が受け取る見込額まで具体的に示すことが重要です。

住居についても、写真や設備の説明を用いることで、本人が入国後の生活を具体的にイメージしやすくなります。作業内容について動画などを用いることも、理解を助ける方法の一つです。

説明した記録を残す

説明を実施した場合には、所定様式を活用し、説明内容や実施状況を確認できるようにしておきます。

担当者、実施日時、説明方法などについても、必要な記録を整理し、所定の書類を適切に保管しましょう。

関連する様式として、次のものがあります。

実際に使用する際は、最新の様式と記載要領を確認し、説明内容と提出・保管する書類に食い違いがないようにすることが大切です。

5.労働条件通知書で明示すべき事項

待遇等の説明義務とあわせて、労働基準法第15条等に基づく労働条件の明示も必要です。

労働条件の明示と、育成就労制度上の待遇等の説明は、関連していますが、同一の義務ではありません。

労働条件として明示する主な事項

雇用契約を締結する際には、契約内容に応じて、次のような事項を明示します。

  • 契約期間
  • 有期労働契約を更新する場合の基準
  • 就業場所と従事する業務、およびそれらの変更の範囲
  • 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 賃金の決定・計算・支払方法、締切日・支払日
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  • 昇給に関する事項
  • 退職手当や賞与など、該当する事項

明示すべき事項や書面等による明示の範囲は、法令や契約内容によって異なります。最新の労働条件明示ルールに従って確認してください。

「書面を渡すこと」と「理解できるよう説明すること」は別

労働条件通知書を交付していても、育成就労制度上求められる待遇等の説明を行ったことにはなりません。

例えば、書面に「基本給20万円」と記載されていても、本人が社会保険料や税金、食費、居住費などの控除額を理解していなければ、実際に受け取る金額を把握できない場合があります。

そのため、書面による労働条件の明示と、本人が待遇を理解できるようにする説明を、それぞれ適切に実施することが重要です。

6.求人募集の段階でも情報の明示が必要

受入れ企業や監理支援機関が求人募集を行う場合には、求人情報についても適切な対応が必要です。

育成就労制度に関する指針や職業安定法令等を踏まえ、募集時点で必要な労働条件や求人情報を明示し、実際の雇用契約と食い違いが生じないようにしなければなりません。

求人情報で確認する主な事項

求人募集では、該当する法令・指針に従い、例えば次のような事項を確認します。

  • 業務内容
  • 契約期間、契約更新に関する事項
  • 就業場所と業務内容等の変更の範囲
  • 労働時間、休憩、休日
  • 賃金や賃金形態
  • 固定残業代を採用する場合の必要な情報
  • 社会保険・労働保険の適用に関する事項
  • 事業主の名称など、求人者に関する情報
  • 受動喫煙防止措置など、法令上明示が必要な事項

具体的な明示事項は、募集の方法や求人者の立場などによって異なるため、適用される指針・法令を確認する必要があります。

本人の意向による転籍が制限される期間

育成就労制度では、本人の意向による転籍について、分野別運用方針等に基づき、一定期間の制限が設けられます。

制限期間は分野ごとに定められ、原則として1年以上2年以下の範囲で設定されます。また、分野別の定めが1年を超える場合でも、受入れ側が所定の要件を満たして1年とする取扱いが認められる場合があります。

1年を超える制限期間を設定する場合には、制度上求められる待遇向上策にも注意が必要です。

この期間については、求人募集の段階から適切に明示し、雇用契約締結時の説明内容とも一致させることが重要です。

ただし、転籍制限期間や待遇向上策の具体的な要件は、分野別運用方針等によって異なるため、受入れ分野の最新資料を確認してください。

7.受入れ企業が確認しておきたい実務チェックリスト

ここまでの内容を、実務で確認しやすいように整理します。

報酬・費用負担

  • 適用される最低賃金を確認している
  • 日本人労働者と同等以上の報酬であることを説明できる
  • 報酬の決定根拠を確認できる資料を整理している
  • 食費・居住費などの徴収額が適正である
  • 徴収費用の内訳・算定根拠を整理している
  • 給与控除について、必要な協定その他の手続を確認している
  • 報酬の支払状況を確認できる資料を保管している

労働条件・休暇

  • 労働時間・休憩・休日が法令に適合している
  • 時間外労働等について必要な手続を行っている
  • 年次有給休暇を適切に付与・管理している
  • 一時帰国の申出に対応するための取扱いを整理している
  • 実際の勤務状況と雇用契約上の労働条件が一致している

説明義務・書類管理

  • 本人が理解できる言語で待遇等を説明している
  • 対面またはテレビ電話等、適切な方法で説明している
  • 総支給額、控除項目・金額、手取り額を説明している
  • 住居や費用負担の内容を具体的に説明している
  • 第1-13号様式、第1-15号様式など、必要な様式を確認している
  • 説明内容や実施状況を確認できる記録を整理・保管している
  • 労働条件の明示と待遇等の説明をそれぞれ実施している
  • 求人募集時の明示事項と雇用契約の内容が一致している
  • 転籍制限期間と、該当する場合の待遇向上策を確認している

チェックリストは、すべての案件に一律に適用するものではありません。実際の受入れ分野、雇用契約、住居、給与控除の有無などに応じて、最新の法令・運用要領・所定様式と照合して使用してください。

まとめ

育成就労実施者に求められるのは、書類を作成して手続を済ませることだけではありません。

特に重要なのは、次の3点です。

1.報酬と費用負担の適正性を確保すること

最低賃金を守るだけでなく、日本人労働者と同等以上の報酬であること、食費や居住費などの負担が適正であることを確認する必要があります。

2.労働関係法令を遵守し、契約と実態を一致させること

労働時間、休日、年次有給休暇、一時帰国への対応などについて、法令と制度上の要件を踏まえて適切に管理することが大切です。

3.本人が待遇を理解できるよう説明し、記録を残すこと

労働条件を記載した書面を渡すだけでなく、報酬の手取り額や費用負担、住居、転籍制限期間などについて、本人が理解できるよう説明し、その実施状況を確認できるようにしておきましょう。

育成就労制度では、受入れ企業の適正な雇用管理と、育成就労外国人の保護が重要になります。

制度上の書類を整えることに加えて、本人が自分の労働条件や待遇を理解し、安心して働ける環境を整えることが、適正な制度運用につながります。


参考資料

※本記事は、育成就労制度に関する一般的な情報を整理したものです。個別の受入れに当たっては、最新の法令、運用要領、分野別運用方針および所定様式を確認してください。

在留資格の手続きは、状況によって必要な対応が大きく変わります。
「自分の場合はどうなるのか」と迷ったときは、専門家に確認することが大切です。

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『清水純樹国際行政書士事務所』